〈back〉

……番外編、のようなもの、その2。時期的には、第一部と第二部の間か、一部の最終話の少し前くらい
メインの一人である梅花の話ですが、梅花視点なので、とてつもなく、ネタばれ的な気も。
えっと、久しぶりに書きましたが、メイファは、こういう子です。
一人称は、口に出すときは「メイファはー」ですが、心の中を素で書くと、彼女の一人称は「わたし」です。
ちょっと昔書いた話が自分で痛くて読めないので、若干口調が違うかもですが、今書くとこんな感じという事で。
これ、実は5年ぶりのUPなんですが、その、このページの。
2011,9.19UP。……こんな感じですみません。
ただ、私の話全般の話ですが、彼女はこう言ってますし、思ってるようにも書いてますが、それが事実とは限りません。
これは、あくまでも彼女が自覚している自分の話で、それと本編は矛盾しないつもりです。



「あーあ。つまんないなぁ」
 私の零した声に、部屋の端で控えていた露月が、不快そうに眉を顰めた。毎日毎日飽きもせず、この男は私の一挙一同に不快そうな素振りで返してくる。
 本当に、面白みのない男だと思う。そして、多分、とても愚かなニンゲンだとも。
 部屋の端で、壁を背にして立つ彼は、いつだって、私の居場所から、一番遠い場所を計算して、わざわざ、そこに移動していく。
 私が動けば、彼も移動する。何でも、私と同じ空気を吸っていると思うと、それだけで不快になるらしい。空気がどこかで別の空気に変わる訳でもないのに、随分と面倒な思考だ。潔癖症というのだろうか。こういうのも。
「梅花様。お暇でしたら、何か面白い書物でもお持ちしましょうか」
「嫌。ルゥの持ってくる本って、つまんないもん。何だっけ。この間持ってきたの」
 口調だけは丁寧に、仕草だけは恭しく。
 それは完璧だけれど、そこにわざと、不快な仕草を混ぜ込んで、彼は私を苛立たせようとしてくる。
 本当に、愚かな「ニンゲン」だ。
「梅花様の記憶力でしたら、覚えていらっしゃると思いましたが「みんなのどうとく」と、「おともだちとなかよくしよう」でしたね。梅花様の大好きな美冬様の国で発行されたものをわざわざ探して来たのですが、お喜びいただけなくて残念でした」
 こども向けの絵本が二冊置いてあった時は、まあ、なかなか意外性のある選択をしたものだと、とりあえずは感心した気がする。
 こういう嫌がらせは確かに、中々、新鮮だった。
 ただ、それは本当に、無駄な事だとも思ったものだ。 私にとっても、彼にとっても、それは何も生まない。
それで彼の気が済むなら、適当にすればいいとも思うけれど。
「んー。むかーし、一般教育の資料として、そういうの読んだけどぉ、ぜんっぜん意味わかんなかったのよね。ああいうのって、実体験を伴って、初めて理解に至るものだと思わない? まあ、何を正解にしたがってるかくらいは理解できるけど」
「………そうでしたか。確かに仰る事はごもっともだと思います。梅花様は人間らしい感情には欠けていらっしゃいますからね。今後は別の本をお持ちしますよ」
「うん。がんばってみるといいわ。でも、本より、ルゥのそういうイヤミの方がまだ、梅花にとっては楽しいかも。梅花をまるで、普通の人間と同じような情緒があるとでも思ってるみたいな言葉なんだもん。面白いよねぇ。ルゥは」
 こんな風に褒めてあげるのも、彼には不快な事。
 それを理解して、今日も私は、彼に話し掛ける。露月は気付かない。きっと、彼が私を理解するよりも、私が彼を理解している事を。
 私は何も理解していないとでも、彼は思っているし、そう言葉でも告げてくる。
「御冗談を。ちゃんとバケモノだと思っていますよ。梅花様の事も、梅花様のお仲間たちも」
 ほら。こんな風に。
「嘘。理解しきれてないし、思いきれてもいない。理解出来ていたらね、そんなに無駄な事をする筈ないよ? 梅花には何を言っても意味なんかないもの」
「美冬様のおことばでもですか?」
 露月が注意深く、私の瞳を覗きこんだ。
 彼の瞳は嫌いでもない。暗く濁り、でも、まだ「ヒト」に過ぎない瞳だ。
「そうねぇ。梅花は冬ちゃんの事が、世界で一番好き。そういう事になってるから、きっと、他の誰かの言葉よりはいいと思うわ。でも、きっと、ルゥの欲しがるような意味はそこにはないかなぁ」
 言葉の意味を、測りかねるように、露月の表情が歪んだ。
 彼を、愚かな、ニンゲンらしい、ニンゲンだと思うのはこんな瞬間。
「そういう事になってる?」
「うん。そうよ。ねぇ、ルゥ? 貴方がもし、本当に梅花を殺す為に、梅花を理解するなら、きっと、それに気付けるわ。そして、多分、それが出来たら、「私」を殺せる」
 ふわりと、笑って見せた私を、ただ彼は得体の知れないものでも見るかのように見つめている。
 何も分からない人間を、こんなに近くに置くのは久しぶりだ。
 誰もが、私の擬態に惑わされて、「梅花」に従うようになるか、あるいは「梅花」に殺されて消えた。
 一体、彼はどうなるだろうか。私の事を何も知らず、彼の中で膨らませてきた「私」を延々と呪い続けてきた時間しか持たない男は。
 私の知らない「私」を持っているのは、きっと、このニンゲンだけだろう。
「ああ。そうだ。さっきの道徳の本の話だけど」
 露月が、「は?」と随分と間抜けな声を漏らした。
「最初から答えの方を優先して書いてあるクイズの本なんて読んだってつまらないでしょ。だから、つまんない本なの。梅花にとってはね」
 過程を楽しめないゲームはただの作業だ。簡単に飽きてしまう。
 楽しむ事は、大事な事だ。
 それが出来なければ、本当に何もかもが味気ない。

「ちゃんと、梅花を理解してね。それが貴方の役目なんだから」

 こう言った所で、彼は、私を理解しない。
 私に、いつまでも普通の人間のような情緒を求めて、問い続ける。それを止めた時、彼は、もうどこにもいられなくなる。
 それを私は理解している。彼は、そういうニンゲンだ。こんな風にヒトの気持ちを理解出来るようになったのは、きっと美冬ちゃんのおかげ。
 彼女を好きになったおかげ。
 だって、彼女はとても、ヒトらしいヒトで。いつだって感情を揺らし続けて矛盾し続けている。それがヒトなのだと、私に教えてくれたヒト。
 だから、私は、彼女を好き。そういう事になっている。
 これが、唯一、私が楽しめるゲームで、白薔薇様が、私に教えてくれた生き方。

さあ、彼は、それをいつになったら理解するだろうか。
私を好きにでもなれば、理解できるだろうか。

「うん。それも面白いかも」

私が笑った意味を、今も彼は分からないまま、憮然とした表情で、私を見つめ続けている。
理解も出来ぬまま、他人を見続ける。それもヒトのヒトらしい所だと、ちゃんと、私は分かっているけれど、彼にはきっとまだ、それは理解出来ないだろうと、思って笑む「私」を。

(end)


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