〈back〉

……番外編、のようなもの。時期的には、第一部と第二部の間の話?
第二部後半あたりから登場する《アリウム・シュベルティー》(外見、子供)とリリィと白薔薇の腹の探り合い話。
あまりにもオリジナルを放置しているので、パソコン内放置状態から持って来ました。
…………持ってきたけど意味が分からないかもしれない。これ…。
先に登場人物リストでもあげた方がいいかもしれないです。いや、それ以前に書けばいいんですが、続き。
という事で、久々に設定表確認したら、自分の頭の悪さと痛さにやられました…。
2006,11.16UP。……いろいろごめんなさい。
懐かしの会誌持っている方…最終回の時の瀬良様の絵から、アリウムがどれかは分かると思います。
…女の子の方です。


わたしの名前は、アリウム・シュベルティー。
わたしの名前は、花の名前。
わたしの名前は、わたしの証。
わたしは、ここで審判の時を守るために咲かされた、花。

 


「アリウム・シュベルティー?」
溶けてしまいそうな闇の色。それは、とてもきれい。だから、わたしは、いつもそれだけを見ている。
そうすれば、とても、とても、わたしは、しあわせになれる。
「そうだ。お前には紹介しておこうと思ってな」
でも、今日は、しあわせになれない。なっちゃ、だめ。ちゃんと、ご挨拶しなさいって女王様が言うのだから。女王様の命令を聞く為に、女王様を守る為に、わたしは在るのだから逆らっちゃいけない。
女王様の後ろに控えていたけれど、出ておいで、と言われたから歩いた。
一歩。二歩。
歩くのはまだ慣れないけれど、転ばないように足を動かす。
「どうして、わたくしには、なんですの?」
それから、わたしは、言われたとおりに、目の前のヒトを見る。女の人だ。…それとも、女の子、っていうのかな。分からないけど、わたしよりは、大きなひとだ。金色の髪をしている。蒼と碧の目をしている。そして――――白いお洋服に鎖。
…ああ。……わたしは、この人を知っている。
「…………りりぃ?」
声を出したら、りりぃは怖い目をして、わたしを睨んできた。
「…白薔薇様。これは、何ですの?この、出来そこないの人形はっ!」
そして、りりぃは大声を出した。金色の髪がぱらぱらと揺れた。
「…………りりぃ。うるさい。だまって」
りりぃの声は、きんきんと響く。耳がいたくなる。こういう気分を「不快」と言うんだってわたしは知ってる。
「なっ!何ですの!その言い草はっ」
「だまって」
うるさい人は黙らせてもいいんだって、女王様は言った。わたしには、その権限があるんだって。
そして、今、りりぃはうるさい。だから黙らせてもいいはずだ。
「……………『顕現せよ。我が闇よ』」
教えられた言葉を呟くと、胸から下げたプラネットリングが光る。光るものは好きじゃないけれど、この光だけは好き。だって、これは、わたしの力を形にしてくれる。望むままに炎を、氷を、あるいは、闇を生み出して、操らせてくれる。
「きれいに…できたかな。できた、よね」
目の前の空間に闇が凝縮されていく。ぼんやりとした闇が光と交じり合いながら、闇の刃を形作る。うん。こんなものでいいかな。わたしは、りりぃをおとなしくしてあげるために、それを振り上げた。
「りりぃだって、出来そこないのお人形なのに、どうしてうるさくするの?」
知ってる。わたし、知ってる。りりぃとわたし、それから、ブルースター。わたしたちは、女王様に作ってもらったお人形なんだ。
だから、同じなんだ。
「っ!一緒にしないでくださる!?わたくしは貴方のような出来そこないではありませんわ!」
ああ。うるさい。わたしは、こんなにうるさくしないのに。
そう思って女王様を見たら、女王様は、笑ってわたしたちを見てた。
りりぃも女王様を見てたみたいだった。
「リリィ。甘く見ると美しい身体に傷がつくぞ。アリウム・シュベルティーは、お前と同程度のキャパシティを目指して造られた中の、希少な成功例だ」
女王様の声は心地いい。少し低くて闇にきれいに溶け込んでいく。闇に溶けていくものはきれいで、好き。りりぃのうるさい声は、きらい。闇がざわざわする。
「……到底、わたくしには及ばないと思いましてよ」
「そうかもしれんな。やはり、お前には、これの欠点が見えるか」
女王様が笑っている。
「それが、わたくしの価値ですもの。自分の欠点も見えないような人形には、よく理解させた方がよいのではなくて?この程度の闇の刃で、得意になられては、困りますわね」
しゃらんっと、音がした。

そして、わたしは、床に叩きつけられた。

「……?」

いたい。身体が痺れて、いたくなってくる。なに?これはなに?
なにが起きたの?
身体が痺れたからなのか。創ったはずの闇の刃も拡散している。せっかく、きれいにできたのに。せっかく、りりぃにぶつけてあげようと思ったのに。
「見えまして?わたくしの、力。………同じ人形でも出来が違いますのよ。ねぇ?アリウム」
頭がいたい。片腕がうごかない。目の前がぐるぐるしてる。
わからなくて、頭をさわろうとしたら、それも、できなかった。
「生まれたての子供をそう苛めてやるな。リリィ」
髪にりりぃの鎖が巻き付いてるのと、腕に何かが刺さってる。
そうか。これに絡め取られて、攻撃を受けたんだ。
りりぃに、いじめられたんだ。
「苛める?わたくしの方が余程苛められておりましてよ?白薔薇様にですけれど」
「それは済まないな。だが、特に、お前を苛めているつもりはないぞ?少なくとも、………リーフや美冬ほどは、な」
「充分苛めていらっしゃるじゃありませんの。わざわざ、あの二人と比較なさってくださるんですものね。……ああ。無礼な事を申し上げましたわ。お許し下さいませ」
何か話してる。女王様とりりぃが。…でも、……そんなの、なにをはなしててもいいことだ。だいじなことはべつのこと。
りりぃに、いじめられたんだ。
わたしは、りりぃに、いじめられた。
いじめられた。
りりぃに。わたし。
もうすぐ、いなくなるにんぎょうに。
「…………いたい」
だから、やりかえさなきゃって思った。
「ええ。痛いでしょうね。肉体を持ったんだから当然でしょう?たとえ、人形だとしても」
目の前で、何かを言うりりぃに。
「いたい。りりぃ、きらい」
「わたくしだって、嫌いですわ。あなたも、ブルースターとやらも………リーフも、美冬も!わたくしも!」
りりぃは、きらい。きんきんした声が、耳に響く。闇がざわざわする。
「…そう、嫌いよ。…………感じられるもの…何もかもが嫌い。何もかも……壊れてしまえばいいんだわ」
今、一瞬だけ、闇に溶けていきそうに見えたけれど、それでも、りりぃは、きらい。
だって、とてもこわい顔でわらうから。
とてもこわい顔をして、眼を光らせるから。
「安心なさいな。アリウム。わたくしは何もかもが嫌いだけれど、白薔薇様のご命令を無視するような事はしませんの。……だから、これ以上は痛くなんてしなくてよ?」
もう一度、叩きつけられて、しゃらっと鎖がわたしから離れていく。離れた鎖がりりぃの白い腕に巻きついていくのを、わたしはぼんやりとした頭で見ていた。
いたかった。
りりぃは、うそつきなんだっておもった。

 

少し経ってから、女王様が教えてくれた。
りりぃは、みふゆとりーふ様が、特別に嫌いなんだって。
わたしは、りりぃがうるさくしたからきらいになったけれど、りりぃは、もっともっときらいなものがいっぱいあるんだって。
「じゃあ、なにがすきなの?りりぃは」
わたしは、闇が好き。きれいな闇を見ているのが好き。闇の全てを纏える女王様が好き。
そう言ったら、女王様は笑った。
「…そうだな。……特別に嫌いだという事は、特別に好きだったと云う事に似ている、とだけ言って置こうか」
そして、むずかしい事を言った。わたしは、まだ、生まれたばかりだから、むずかしい事はわからなくて当たり前だって、りーふ様は言っていた。
女王様の言うことはむずかしい事だって、りーふ様は言っていた。それは、覚えていて『自由な時間』にでも考えてみなさいって言ってた。
…これは、きっと、むずかしい事だから、考えてみる事だ。考えるって、なんだかとてもむずかしいことだけど。
たくさんの、情報をわたしは持っている。生まれる前から。
だから、考えるという事をしなくても、知りたいことはある程度分かるようになっている。でも普通のひとはそうじゃないから、皆考えるんだって、りーふ様は言っていた。
「わたし、闇が好き。闇が…特別に好き?」
「どうかな?光に憧れられても、お前達はそうそう外には出て行けないから、好きである方が楽だろうがね」
楽っていうのも、よくわからないけれど、わたしは、こくんって頷いた。きれいな闇を見ている時が好き。何かを考えるのは、少し疲れるから、いつも闇を見ているだけで時間はすぎてく。
でも、今度、ブルースターとお話して考えてみようと思った。
「ああ。それとアリウム・シュベルティー。リリィに今度会っても、仕返しをしたりしないようにな。一応は、同じ『葉』の仲間だ。余計な揉め事で計画を狂わされても困る。全ての準備が済むまでは…おとなしくしておいで」
わたしは、頷いた。女王様の命令は絶対だから。
そうしたら、女王様は微笑んで、わたしの腕の怪我を治してくれた。
闇の中に白い薔薇の花びらが散る。これは、女王様の力の形だ。白い花びらがひらひらふると、怪我がいたくなくなっていく。
いたいのがなくなって、わたしは、また、ゆっくりと溶け込む闇を見ることが出来るようになった。
しあわせなきもちになれた。

 


でも。
女王様はそう言ったけど、早くやりかえさなくて、いいのかなって思った。
だって、りりぃは、もうすぐいなくなってしまうはずだもの。
だって、わたしの情報回路には、そう予定が書き込まれていた。いなくなったら、やりかえせない。わたしだけが、いじめられたんだ。それは、不公平っていうんじゃないかなって思った。
回路に刻み込まれた情報から、頭の中にりりぃの顔を映し出す。蒼と碧で目の色が違うのはオッドアイって言って、珍しいものなんだって書いてある。わたしの目は、どっちも同じ色だから、りりぃとは違う。だから、りりぃはわたしを『出来そこない』なんて言ったのかな。なんだかすこし違う気もするけど、よくわからない。
わたしは、きれいな闇が好き。溶け込む闇が好き。……でも……光っていた、りりぃの蒼と碧の眼は、少しだけきれいだった。こわい顔で笑ったとき、きらいだと思ったけど、きれいだとも思った。
でも、それがどうしてかもわからない。
むずかしい。
ああ。だから。考えてみようと思った。
いつか、溶けゆく闇の中から桜の色を纏ったひとがあらわれるまで、時間はあるのだから。
予定された、その時まで、この闇のなかで大事な事を確認していよう。
わたしは、アリウム・シュベルティー。
わたしの名前は、花の名前。
わたしの名前は、わたしの証。
わたしは、ここで審判の時を守るために咲かされた、花。
ほら。大事な事は分かってる。だから、考える事くらい出来る。

 

わたしは、ここで、考える。わたしと、それから。…それから?

(end)


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