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外に出るとイルミネーションの明かりが見えた。
さすがに十二月にもなると肌寒い。
「寒くありませんか?水落先生」
櫂はベランダで佇んでいる人影に近づくと当然のようにその隣に座った。
「酔い覚ましにはちょうどいいですよ。まだパーティーは続いているでしょう。君がいないと翔たちが寂しがりますよ」
今日は、年末も寮に残っている有志たちが計画したクリスマスパーティーだ。小さいながらクリスマスツリーもある。昼間翔や直人たちが買い出しに行っている間に杏里が楽しそうに飾りつけたものだ。一見、普通の飾りつけだが、所々で杏里独特のセンスが発揮されたものになっている。それを中心に今も寮の中からは笑い声が聞こえてきている。
「翔には、水落先生の所に行ってくるって言ってきましたからご心配なく」
さらりと返して櫂は瀬那が先程までぼんやりと視線を漂わせていた夜空に目をやった。冬の夜空らしく静かに澄んでいる。
「もしかすると、迎えにきてくれたんですか?私が戻ってこないから」
「酔い覚ましに出てくる、とか言って三十分も戻ってこなければ様子を見に行く人間の一人や二人、でますよ。だから、一応僕が代表で見に行くって言ってあります」
「…一応?」
「多分、セナは戻ってくる気がないんだろうな、って思ったから」
瀬那は僅かに苦笑を見せながら櫂に答える。
「やはり、教師がいると学生も羽目を外して騒げないでしょうから」
それが建て前にすぎないというのが櫂には解る。瀬那が戻ろうとしないのは、多分、そんな表向きの理由ではない。瀬那の中の問題だ。そして、それを櫂が察するであろう事を知っていながら瀬那は、そう口にはしない。
「…まあ、そういう事にしておくよ」
「はい」
「だから。セナが戻ってこない気がしたから、僕が来た」
少し不思議そうな顔をした瀬那に向かって一気に言い切る。
「迎えにきたわけじゃない。傍にいたかったから来たんだ」
「…櫂」
「これからもそうするよ。たとえ、それが何処であってもね」
そう強く言い切る櫂に瀬那は目を見張った。少し不安を揺らした瞳を見せながらも櫂は真っ直ぐに瀬那を見ている。
「…離れたりしないから」
そう言って、そっと寄り添う。
「時々、君には驚かされる気がしますよ」
「そう?」
「ええ」
まるで全てを見透かされたような気分に少しバツの悪い思いをしながら、けれど嬉しい、と瀬那は思う。こうして「共に居る」と言い、そうする櫂が愛しい。
少し、震えた指先が不安を垣間見せるのも。
「……此処は少し寒くありませんか」
「別に」

「戻りましょうか」
「え?」
瀬那の当たり前のような言葉に櫂の方が驚く。
「セナ…」
何か言いたそうな櫂を止めて瀬那は柔らかく笑う。
「別に無理はしていませんよ。ただ、戻ってもいいと思ったから言っただけです」
そっと抱き寄せて耳元で囁く。
あの明るい輪に、自分が居るのはどこか間違いであるような気がして、その場を離れた。けれど、今は不思議とそんな気分がなくなっている。
この温かい想いと共に。
「戻りますよ」

「君がいますから」

聖なる夜は、賑やかで穏やかな時間と共に過ぎていく。傍で笑う人と共に。

end.

はい。今はいったいいつだ、という時期ですがやっとクリスマスSSを書き上げました。
思えば自分のサイトでそんな物を書く日が来るとは思いませんでした。
タイトルも決めた頃は内容と絡んでる筈だったものの、時が過ぎる内に何を考えて付けたのか微妙になっていくという…。
時の流れって残酷ですね(違う)。
私の中でセナは「賑やかで穏やかな空間に居る自分を何処か間違ったものだと認識してしまう」
そんな感じの所がありまして。
紫苑、来栖、翔は、そこから引っ張り上げてくれる相手、
杏里はそれに気づかない事で癒してくれる相手、
そして櫂は「それなら自分がセナの所に行く」と言ってくれる相手かなぁと
そんな風に思ったのが書くきっかけ。本当に個人的感想ですが。
長いあとがきですが読んでくださってありがとうございます。

2005,1,14


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